辺境の地のパン
過去に行ったことがあったパン屋を思い出した。どうしてもそのパンを食べたい気分が抑えられなかった。
そのパン屋に行くのは、かなりハードルがある。私の自宅からは80kmは離れており、そこまで行くには2つの山を越えなくてはならない。そういったかなり遠い辺境の地にあり、電車とバスで行くには膨大な時間がかかってしまう。過去に2度行ったことがあるが、どちらも自転車で行った。2つの山を越えていくと、苦労感もありパンは余計においしく感じられる。
ちょうど7月の涼しい日があり、これはチャンスと考え、行くことにした。涼しい日を選ばないと、さすがに山といっても、熱中症で倒れてしまう。
当日は5時には出発した。往復で160kmはかかるので、のんびりとしたペースで走る。やはり涼しいと気持ちよく、7時に山の入り口に来た時には、楽しみ、わくわく感が勝っていた。
1つ目の山はだらだらと走り、1時間45分もかかって30kmを走り切った。道の駅があり、そこで休憩。近くにアジア系の外国人夫婦2組がいて、なにやらしきりに所得税や住民税といったことを話しているのが聞こえた。なんだか外人なのに、日本に長年住む市民的な考え方をしているなあと感心した。それくらい、この時にはまだ余裕があった。
しかし、ここからがきつかった。さすがに2つ目の山はつらかった。過去には、去年の9月末に来ていた。その頃は涼しく、ダウンヒルで体が冷えるくらいであった。今回は涼しい日といっても、7月の9時台となると蒸し暑さがつらい。車が勢いよく抜かしてきて、悠々と走りやがってと、いらいらするくらいであった。
ようやく2つ目の山を走り切り、パン屋に到着した。まだ開いていなかったが、先客の中年の奥様が2人いた。少し店の前にたたずんでいると、何やらにぎやかな太鼓の音、掛け声が聞こえてきた。これは獅子踊りであった。たぶん小学校高学年から中学校くらいの子供たちが1番前で獅子舞をやり、その後ろにもっと小さな子供たち、大人たちと続いていた。たぶんこの子供たちで、この地域の子供は全員なのだろうと思われた。小規模ながら、親御さんらが見守っていた。
そんな祭りもやっていたので、パン屋は早くに開いた。先客のマダムの後ろに並ぶと、続々と客が続いた。夫婦できている人もおり、このあたりに住んでいると思われた。パン屋は、キッチンカーのような感じ、店舗ではなく、店頭販売になっている。カーの中に3段のショーケースがあり、そこにパンが15種類ほど並んでいた。どれもうまそうであった。また、夫婦でやっており、奥さんは注文を聞く、旦那さんは金額を計算し、レジ打ちをしていた。旦那さんはそれほど話さないが、奥さんは朗らか、明るい人で、この人に会いに来るために、パンを買いに来る客もいるのではないかと思われた。
疲労感もあり、日差しが熱くなってきたので、早く買って木陰で休みたいと思っていたが、先客のマダムが傍若無人さを見せつけてきた。このマダムらは、パンを買い占めていた。たぶん家族や、友人たちに配るのだろう、一つのパンを10個程度も買い、2人で合わせて一万円もかかっていた。時間は10分もかかり、じりじりと太陽が照り付ける中、後ろに並んでいるのはつらかった。自分たちは楽しそうにだらだらと店のルーフの陰で買い物を楽しんでいるのにこっちは日を浴びてきつく、イライラが募った。この買い物にはあきれていた。一番は長々と待たされたことにあった、また自分は少ししか買わないが、これだけ買い占めたら、ほかにパンが欲しい人が買えなくなってしまうのではないか、そういうことも考えず、自分たちだけたくさん買って楽しもうとするような感じを受け、いい印象を持てなかった。
私のパンは3つだけ購入、すぐにレジは完了した。パンは、塩バターロールやクルミアンパンを購入した。今回は、先客に腹が立っていたのもあるし、前回ほどおいしくは感じられなかった。一つだけ注文と違うものが入っていて、クルミアンパンを食べられなかった。ケースは3段あり、別々の段にあるパンを3つ選択したのだが、どうやって間違えるのだろうか、疑問であり、どうも満足感はなかった。だが、近くの川を見ながら食べていると、心が癒された。
それなりにうまいパンなので、また涼しくなったらリベンジしようかと思う。この山に行くのはきつすぎ、帰ってから三日くらいは疲労が抜けなかった。